2016年7月31日日曜日

技術開発と製品開発とビジネス開発は全く別物だけど混同されていることが多いという話

あらまし

お仕事で様々な立場の方とお話しする機会があるわけですが、以前からどの階層にいる人にも共通した「技術開発と製品開発とビジネス開発が同時に出来るのではないかという思い込み」を持っている方が非常に多い事に気付きました。



よくある混同で起きるマズい事

例えば、おぼろげながら自分達で考えている製品像が浮かんだとしましょう。この製品像は、それこそ具体的になっているものではありませんが、必要な機能や性能やインターフェースが何となく整理できた状態になっていたとします。そこで必要になる機能を実現するための技術的な要素は、少し頑張れば実現できそうな事ばかりで、さっそく製品開発をスタートする事にしてしまいます。

このシチュエーションで起きるのは以下です。
  1. 製品の機能を仕様にまとめる
  2. 仕様が好ましいものと判断され/判断し、計画をスタートさせる
  3. 仕様を満たす機能を実現できるように設計を開始する
  4. 設計が完了したので実装を始める(ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアは問わない)
  5. 実装が完了したので製造する(ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアは問わない)
  6. 製造が完了したので評価する
  7. (以降、付随したプロセスに続く・・・)
何もマズい事が起きていないようにも見えます。が、実際に技術開発と製品開発とビジネス開発を混同している人達に起きる悲劇の一例を挙げます。
  • 出来ると思っていた技術的な要素に意外な課題があった
  • 技術的な要素に絡む問題のために実現すべき仕様の一部が実現出来なくなった
  • 仕様の一部が無くなったが、市場に出したい時期を明らかにしているので出す事にした
  • 実現できなかったのはエンジニアリング能力の低さだと誰もが落胆し真因にたどり着かない
混同によって、どれもこれもが全て中途半端になってしまうのが最大の欠点です。こういった結末に至るプロジェクトは無数にあり、共通に存在するのが技術開発、製品開発、ビジネス開発を混同してしまっている事にあります。

技術開発

当たり前の話ですが、製品を実現するために必要な技術要素について、事前に課題や実現性を吟味しておく必要があります。そうでなければ製品の実現性すら不明のままで製品開発をスタートさせる事になってしまいます。このような組織にいたっては、製品開発を行う時点でビジネスまで混同して考えてしまっているので、全部が不透明感で一杯になる事になります。

技術開発は、製品開発とは性格の異なるもので、将来何に役立つのかわからないが、魅力的な物事について事前に研究開発しておくものです。大抵の場合、これらは現場の技術者の個人的な興味に由来していたり、過去に失敗した製品の残骸からゾンビのように生き返って組織に残っているようなものだったりします。

そして、非常に重要な点ですが、これらは一般に組織的に必要性を認められることは少なく、たいていの場合アンダーグラウンドで活動する事すら認められないようなものだったりします。(そんな事をやっている暇があるのなら、別の事をやれというやつです。)

もちろん、ニーズを的確に察知して必要になりそうな技術要素について研究開発する事も多いのですが、実際にそれらはビジネスへの発展を事前に考慮しているので、思わぬ発展に至るケースは少ないように思います。

いずれにせよ、重要な点はその時点で何の役に立つのかわからない、けれども興味のある物事を実現できるようにしておくというのが技術開発です。

製品開発

製品開発は、商品やサービスを実際に市場に出すために行う活動で、通常はビジネス開発との関係も持ちながら行われます。売れないものを作っても何もならないので、売れる前提でモノを作る事になります。つまり、実現性が非常に重要な点で、この時に初めて技術開発の成果物が価値を持ってきます。

製品開発の段階では、明らかになった技術要素を用いる事ができるようになっていると失敗のリスクを低減できます。

最近は様々な物事が安易に進む傾向があるようで、お金を積めば実現できると思っている方も多いのですが、実際に製品開発をするならば事前に積み重ねられた技術開発が伴っていなければなりません。そうでなければ博打にもなりかねません。動くと思うけどどうかなー。なんて嫌ですよね。

ビジネス開発

ビジネス開発では製品やサービスだけでなく、市場の動向や人々の趣味嗜好、その他さまざまな要素を踏まえて見えるものや見えないものまで作っていきます。

重要な点ですが、技術開発はそれ自身が当初品質が低く、実現形態も最終品ではないので曖昧で、結果的にビジネス開発側では具体的な製品のイメージを持ちにくい性質のものです。ビジネス開発側に自分が位置している場合には、目の前で実現できているモノが、技術開発の成果物なのか、製品開発の成果物なのか、十分に理解した上でモノを見なければなりません。その点を見誤ると、将来の大事な要素を自ら見捨ててしまう結果になってしまいます。

まとめじゃないまとめ

沢山の失敗するプロジェクトと少しの成功するプロジェクトを眺めていると、ある一定の共通項が見えてきました。その結論の一つが上記の、技術開発と製品開発とビジネス開発を混同しない事。です。

技術開発と製品開発を混同している組織は、製品開発で必ず失敗しています。そして、その失敗の原因を現場の担当に押し付けてしまいます。しかし、実際に組織で起きているのは、単に十把一絡げに物事を混同してしまう思想の雑さ加減にあるのです。もちろん、製品開発とビジネス開発も同様で、開発担当現場に一緒にビジネスまで開発させようとする組織すら存在しますが、エンジニアはスーパーマンではないので、小さなビジネスでまとめるなら別ですが、通常はうまくいかないでしょう。

モノを作るのが大好きな日本人ですが、世界中で見ると創造性や生産性は高くないのが現状です。そして、うまくいかなくても分析すらままなりません。結局は「社員の能力」などと言い放つ方すらいるのですが、それでは問題が解決しないようなぁと考える今日この頃なのです。