簡単便利なChaNさんのxprintfモジュール
libcの存在が期待出来ないような小規模組み込みシステム開発において、意外に億劫なのは端末入出力です。newlibなど便利なライブラリが世の中には存在しますが、フットプリントと使用する関数がバランスしないケースも多々あります。
実際にここで代替関数を作ってニンマリしたいところですが、「本当に開発したいものはそれじゃない」ということで後回しにしていました。その類の物は沢山作っていて、そちらが忙しいというのもあったりします。
とある開発作業を進めるうちに、ChaNさんが便利なライブラリ(
http://elm-chan.org/fsw/strf/xprintf.html)を提供されている事を思い出し、組み込んで楽をしていました。
ChaNさん、ありがとう。
RTOSベースのシステムでxprintfを使う
ライブラリというのは、ざっくり言うと上層が楽をするために存在するものです。
便利なライブラリというのは、あっちにもこっちにも使うようになります。
xprintfも例に漏れず、対象システムの中で活用箇所が増えていきました。
「あぁ、これは便利だ。」となるわけです。
使っていたシステムの概略を示すと以下のようになります。
本当は他にも色々と付いているのですが、今回の説明に必要ないので省略しています。
UIOは、システム操作子の動作を監視して、ユーザの要求をシステム制御タスクに伝達するタスクです。
Shellは、シェル用インターフェース(今回の場合、シリアルポート)経由で行なわれるユーザの要求をシステム制御タスクに伝達するタスクです。
Systemは、外界からの要求を基に、システムを望む状態に制御するタスクです。
Displayは、内部タスクからの表示要求を基にディスプレイを制御します。
ちなみに、上記のシステムで使用しているRTOSはスレッドモデルを採用したOSです。
なので、タスクと言っても中身はスレッドです。
さて、当初xprintfはShellタスクの表示用として使用していました。
少し開発が進んだところで他のタスクでも使いたくなってきました。
システムの全体統括を行なっているSystemタスクは、メニューコンテキスト生成も行なっています。
文字列の整形があるので「ここで使えば便利だな」という算段でした。
おっと。
だんだんと話の雲行きが怪しくなってきましたね。
もうお気付きかもしれませんが、xprintfはスレッドセーフではありません。
入出力関数へのポインタは処理によって書き換えられます。
加えて、出力箇所を指し示す文字列へのポインタも状態によって書き換えられます。
ここでxprintfモジュールが内部でどのような依存関係になっているのか見てみます。
(2011年4月14日に公開されたバージョン)
xprintfは、内部エンジンxvprintfに書式解釈と出力を委任する形をとっています。
上記依存関係への視点は、Shellタスクでの使用のみを考えた場合に限っては悪くありません。
では、Systemタスクで文字列整形に使った場合、どうなるでしょうか?
先ほど検討した依存関係の範囲は、全く役に立たなくなります。
例えば、Systemタスクでxsprintfを使い始めた場合、競合操作が起きる結果になります。
これはxputcが何をやっているのか見る事ですぐにわかります。
xputcには、「outptrが0でない時にoutptrが指し示す箇所に文字を入れて戻る」があります。
それ以外の場合、xfunc_out関数で文字を出力ですね。
一方でxsprintfを見ると、「与えられたバッファへのポインタをoutptrに代入してxvprintfを呼ぶ」という処理が記述されています。
先ほどの依存関係を見れば明らかですが、xprintfもxsprintfも内部ではxvprintfを呼び出しています。両者は、xvprintfの先で同じロジックを通過しており、その先でグローバル変数を見ている以上、操作競合は避けられません。
最初にシステムで使用し始めた時は「このタスクのみで使用」と割り切って使っていました。それを忘れてひょいひょい使い始めたからさぁ大変。シェル経由で状態取得しながら操作子いじると、時折システムがおかしな挙動になる始末でした。
趣味で作るような単純なシステムの場合、疑いのある箇所への着目は比較的簡単です。
今回はかなりのデバイスが制御対象になっていたので、他の要素に気を取られすぎていました。
まぁ気付けば簡単、話に書いてしまうのも恥ずかしいような内容です。
xprintfをベースにしたntstdioモジュール
さて、現場で起きた問題を基に、何かを考えるのがCuBeatSystemsのお仕事です。
そのまま当初の方針に従いShellタスクでのみの使用として解決しても構いません。
が、それでは未来の自分や他の開発者が同じような間違いをしかねません。
そこで、xprintfをベースに、RTOSベースシステムでも使用可能な物を試作してみる事にしました。
名付けてntstdio。
ハンドラ毎にI/O関数を設定可能な構成としました。
RTOSベースシステムでも安心して複数の箇所に使用する事ができます。
使い方は簡単です。
ntstdio_initにハンドラへのポインタ、出力関数、入力関数へのポインタを渡します。
ハンドラへのポインタを呼び出しに加えるだけで、ChaNさんのxprintfと同様に使う事ができます。
冒頭で挙げたシステムの場合は以下のようになるでしょう。
- Displayタスクでは出力関数にLCD表示関数を設定して使用。
- Shellタスクでは入出力関数にUART入出力関数を設定して使用。
- Systemタスクでは書式整形関数のみを使用。
従来のxprintfの実装の場合、RTOSの複数の箇所で美味しく頂く事は出来ませんでしたが、ntstdioを使えば上記のように色々な箇所でChaNさんのxprintfを楽しめます。
ダウンロード
試作したntstdioモジュールの
ダウンロードはこちらからどうぞ。
2013/02/16追記
公開当初よりちょっぴりアップデートしています。
最初にダウンロードされた方は再度ダウンロードされる事をお勧めします。
謝辞
常に素晴らしいアイデアとナレッジと実装を公開して下さるChaNさんに感謝いたします。