概要
A tiny MML parserのアプリケーションを考える過程で、LPC810が手元で眠っている事に気付きました。8ピンのARM Cortex-M0+でA tiny MML parserなんて素敵です。さっそく調べてみたところ、先日のArduinoと同様に動作させる事を考えた場合には、State Configurable Timer(SCT)を使ってPWMを構成すれば良い事がわかりました。
あちこちで大不評のSCTですが、実は簡単に使えるのではないかと思っていました。
が、実際にやってみてやっぱり大撃沈。レジスタマップと機能説明を読んでも、どんな風に設定すれば自分が欲しい動作になるのか、全然意味がわかりません。
そんな中、LEDをステートマシンで点滅させるエクセサイズを見つけたので、頭からやってみる事にしました。これを応用すれば出力をトグルさせるだけのPWMにも適用できるというわけです。
リソース
エクセサイズのリソース:http://www.nxp-lpc.com/updated_materials/sct/lpc81x/LPC81x_SCT_code_examples.zipエクセサイズのプレゼン:https://onedrive.live.com/view.aspx?resid=7AE40E5A5F1EC907!24470&ithint=file%2cpptx&app=PowerPoint&authkey=!ACDxmgRtdAZZdXE (スライド30ページから)
エクセサイズのリソース
ダウンロードしたエクセサイズのリソースは、説明に従って実際にプロジェクトを仕上げるために、作業開始時点の内容になっています。プロジェクトをセットアップし、スライド30ページを開きます。Red State Machine file generator
Red State Machine file generatorとは、ステート・マシンを構成し、その構成に従ったソースコードを生成するまでを支援するツールです。
プロジェクトエクスプローラで右クリックを押して「New」から「Other...」を選択します。
「Red State」から「Red State Machine file generator」を選択します。
ファイル名を入れます。
「Choose Target」ボタンを押してターゲットを選択します。
上記で準備は完了。
エクセサイズのスタートです。
ステップ1
- U_ALWAYS状態を削除する
- State Tableタブで状態を構成する
U_ALWAYS状態を削除するために、ステート・マシン編集画面にあるU_ALWAYSを右クリックして「Delete」を選択します。
次に状態を管理するState Tableタブに二つの状態を入力します。
このState Tableに状態名や次の状態名を入力すると、画面中央にある状態編集用GUIにも自動的に反映されます。
上記編集直後の画面は以下。
ちょっと配置が汚いので状態を示すボックスをマウスでドラッグして移動させて下さい。
矢印が双方向に見えるかもしれませんが、そんな事はありません。
きちんと二本に見えるように配置して下さい。
ステップ2
次にステート・マシンに対する入力、delayとmatch0を定義します。ステップ3
動作の定義を追加します。EVENT 0
始めにAction Listタブの右上にあるプラスボタンを押して新しい動作を追加し、名前をEVENT 0に変更します。EVENT 0に対する動作を定義します。
追加は、Operationと書かれたテーブルの上にカーソルを移動させて右クリックして行ないます。
Setオペレーションに対して「Output pin 0」を選択します。
Callオペレーションに対して「Limit unified counter」を選択します。
EVENT 1
同様にEVENT 1を定義します。名前をEVENT 1に変更して、以下の動作を追加します。
EVENT 1は、EVENT 0に対して逆の動作Clear Output pin 0を選択します。
EVENT 0の時と同様にCall Limit unified counterも追加します。
ステップ4
動作を定義したら、状態に関連づけます。State Tableタブに戻ってActionカラムをクリックすると、先ほど定義したイベントを選択できます。
出来上がると以下のようになります。
念のため、ここでSignalsタブの内容も確認しておきましょう。
この値は、最初にState TableにSignal名を入れた時点で自動的に追加されています。
マッチを入力として扱うように設定します。
この時点で、画面中央のステートマシン編集画面は以下のようになっています。
ステップ5
Outputs for State Machineタブを開いてプリロード値を設定します。Generate Codeボタンを押してコードを生成します。
ステップ6
ワークスペースを切り替え、SCT初期化コードを有効にする。エクセサイズのコードで予め実装されたコメントアウト済みの箇所のコメントアウトを外します。
次に、sct_user.hを開いて下さい。
吐き出されたコードは「#include "board.h"」なる定義が実装されています。
ここを「#include "LPC8xx.h"」に書き換えます。このエクセサイズに内包されたCMSISの中にこの定義ファイルがあります。
何故このような作業が必要になるかというと、ツールが自動生成したsct_fsm.cからsct_fsm.hが参照されており、このsct_fsmの内部実装でLPC_SCTという定義を使っているからです。
ステップ7
最終調整です。まず、SCTに制御させるピンを決定します。
今回はLPC800 MiniボードのLEDを点滅させる事にしましょう。
このボードは、PIO0_2にLEDが接続されています。
SWMのピン割当レジスタを設定します。
SWM PINASSIGN6レジスタのビット31:24がCTOUT_0の選択レジスタになっています。
PIO0_0が0x00、PIO0_17が0x11と順に値を加える事で出力を選択します。
今回はPIO0_2ですから、0x02を設定すれば良いことになります。
これで準備完了です。
その他の注意点
CMSISのクロック選択
CMSISのクロック選択は、system_LPC8xx.cの実装側に含まれます。動作させるボードに応じて設定する必要があります。
この選択を間違えると「何で動かないんだ?」と混乱します。
対象プロセッサ
対象プロセッサを正しく選択して下さい。この設定は、プロジェクトのプロパティに含まれます。
この選択によって、ツールチェインに与えられるリンカスクリプトが変わります。
実行結果
今回はLPC800 mini boardを使って動作確認しました。1.6秒周期でGPOをトグル動作させており、この動作がCPUの介在無しで行なわれています。この動作周期では、何が嬉しいのか意味不明ですが、後はレジスタを一つ書き換えるだけでPWMの動作周波数が変更されるという仕掛けです。
まとめ
LPC800シリーズに搭載されている新しいSCTは、レジスタマップや機能説明を読んだだけでは使いこなすのが相当難しいものです。というのも、設計の背景や前提にある上位のモデルをそこから読み取る事は困難で、何を前提に設計されたレジスタなのか理解していなければどんな値を設定してよいのかもわかりません。特に複数の状態を、複数の条件に従って遷移する事を考えると、レジスタの相互関係の理解も必要です。
NXPの設計者が何を思ったのかわかりませんが、「こんなツールを用意すれば今までにないマイコンが生まれる」と息巻いたのかもしれません。日本国内で最初に広まった時点で、このRed State Machineよりも先にレジスタの話が先行した結果、「意味不明な機能」というイメージが先行してしまったのかもしれません。(確かにレジスタマップと機能説明だけ読んだら意味不明でした)
LPC800シリーズのSCTは、色んな人を色んな混乱に陥れているという意味で、決して優れた設計とは言えないかもしれませんが、何か新しい領域に挑戦しようという設計者の意気込みを感じました。本当は、ユーザにそんな意気込みを感じさせてはいけない気もしますが、こういう試行が次の新しいモノに繋がって行くのでしょう。
XilinxのVivadoなんかを見ていても思いますが、ツールに任せるべきところは任せ、手で書くところは手で書く、そんな時代に変わりつつあるのかもしれません。
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